はじめまして

読みもの

人は、出会うより先に、誰かを想像している。

声を聞く前に声をつくり、
名前を知る前に輪郭を与える。

だから「はじめまして」は、正確には最初ではない。

私のなかにいたあなたが、
ほんとうのあなたによって静かに訂正されはじめる、
その最初の瞬間なのだと思う。

あなたが笑う。
想像していたより、少し遅れて。

そのわずかな時間差に、
私の知らない年月がある。

私のいなかった朝。
知らない駅。
もう忘れた誰かとの会話。

そういう無数のものがあなたをここまで運び、
いま、私の前に座らせている。

世界には何十億という人生があり、
そのほとんどは触れないまま終わる。

誰かが眠れなかった夜に、誰かはよく眠り、
誰かの人生を変えた雨の日に、
遠い町では洗濯物がよく乾いている。

それなのに今日、
あなたの時間と私の時間は交差した。

私たちは親しくなるかもしれない。
二度と会わないかもしれない。

どちらであっても、
いまだけは、まだ決まっていない。

そのことが、ひどく美しい。

はじめまして。

それは挨拶というより、
互いの世界に小さな入口をつくる言葉だった。

さようならには、すでに物語がある。

けれど、はじめましてには、
まだ何もない。

何もないということだけが、
そこには、ほとんど無限にある。

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