鵙(もず)の鳴き声が、物憂げに響き渡る。 かつて、この庭には、若木が芽を出した。 少年は、その木に毎日水をやり、成長を見守った。 木は、少年の心の支えだった。
月夜、少年は木の下で、本を読んだ。 ページをめくる音だけが、静寂を破る。 本の物語の世界に、少年は心を奪われた。 まるで、自分が物語の主人公になったかのように。
しかし、時が経つにつれ、木は大きく成長し、 少年は、遠くの町へ出て行った。 故郷を後にする時、少年は木に別れを告げた。 「また、必ず来るからね」
年月が流れ、少年は大人になった。 成功を収め、忙しい日々を送っていた。 しかし、心の奥底には、故郷のことが忘れられなかった。
ある秋、故郷に帰ってきた。 月夜、再び木の下に立った。 木は、少年の記憶よりも大きく、逞しく成長していた。 少年は、木に手を触れ、懐かしさに心を揺さぶられた。
その時、鵙の鳴き声が聞こえた。 それは、少年が子供の頃に聞いた、あの鳴き声だった。 少年は、木を見上げ、静かに語りかけた。 「僕は、大人になったよ。でも、君のことは忘れない」
月が、木漏れ日のように、少年の顔を照らした。 少年は、木の下で、静かに夜空を見上げた。 秋の夜長は、永遠に続くように思えた。