蝶番の世界

朝は、夜の遺書を白い光で消してゆく。
けれど窓辺には、消し残された星がひとつ、
冷えた釘のように空を留めている。

近づけば、あなたの輪郭はほどけ、
離れれば、声だけが鮮明になる。
海が岸を抱くたびに岸を削るように、
愛することは、ときどき
失うことの練習に似ていた。

言葉は心に架けた橋だった。
沈黙は、その橋の下を流れる深い川だった。
私たちは何度も向こう岸を呼びながら、
呼ぶほど遠くなる名前を
胸の内側で濡らしていた。

出会いは偶然の仮面をつけた必然で、
別れは必然を演じる偶然だった。
扉が開く音と閉じる音はよく似ている。
始まりと終わりは、
同じ蝶番を反対側から見ているだけなのだ。

強さは石ではなく、
ひび割れた器からこぼれずにいる水だった。
弱さは傷ではなく、
誰かの暗闇へ降りてゆくための灯だった。

未来はまだ降っていない雨の匂いをまとい、
過去は乾いた傘の骨に残っている。
私たちは明日へ歩いているつもりで、
昨日の影に、ゆっくり押されている。

光は影を追い払い、
影は光の居場所を教える。
希望が細い糸なら、
絶望は、それを見えるようにする黒い布だ。

幸福だけを摘もうとしても、
根の下では悲しみが同じ水を飲んでいる。
生きるとは、どちらかを選ぶことではない。
花と枯葉を両手に載せ、
その重さを、ひとつの季節と呼ぶことだ。

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