朝、スマートフォンが私を起こす。
昨夜の不安を記憶した画面は、
眠れない人のための広告を差し出してくる。
眠れなかったから、薬が売れる。
薬が売れるから、眠れない働き方は残る。
満員電車では、
昨日より高くなった卵のニュースを読みながら、
誰もが昨日と同じ会社へ運ばれていく。
遅刻すれば信用を失う。
電車が遅れても、社会は信用を失わない。
昼休み、若者が未来を検索する。
検索結果の一番上には、
未来を諦めさせないための
三十年ローンが表示される。
家が高いから働く。
働き続けるために家を買う。
借金は鎖ではない。
鎖と呼ばれなくなった鎖だ。
老人は病院の待合室で、
長生きしたことを申し訳なさそうに語り、
看護師は人を救いながら、
自分の生活が救われる順番を待っている。
国は数字で景気を説明する。
企業はグラフで幸福を説明する。
人間だけが、
帰宅後の暗い台所で
説明のつかないため息をつく。
努力した者が報われるのではない。
報われた者の過去だけが、
努力という物語に編集される。
失敗には原因が求められ、
成功には才能が与えられる。
貧しさは自己責任になり、
豊かさは人格になる。
私たちは自由だ。
選択肢の中から選ぶことを許されている。
ただし、その選択肢を誰が並べたのか、
その棚を見ることは許されていない。
誰かが安く買った服の向こうで、
誰かの一日が安く買われている。
誰かが便利になった一秒の向こうで、
誰かの休憩が一秒ずつ削られている。
原因は遠く、
結果だけが玄関まで届く。
段ボールを開けば、
翌日配送の速さと一緒に
見えなくされた疲労が入っている。
それでも夜になれば、
画面の中で誰もが笑っている。
笑っているから幸せなのか。
幸せに見せなければ、
誰にも見つけてもらえないのか。
孤独だから、つながる。
つながるほど、比べる。
比べるほど、欠けていく。
欠けたものを埋めるため、また買う。
こうして欲望は、
私たち自身の声を使って命令する。
世界は突然壊れたのではない。
小さな合理性を一つずつ選び、
正しい判断だけを積み重ねた末に、
誰にも望まれなかった現在へ辿り着いたのだ。
原因のない苦しみはない。
ただ、原因をつくった者と、
その結果を引き受ける者が、
同じ人間ではないだけだ.



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