数千万年前の午後が、琥珀の中に閉じ込められている。
一匹の小さな虫が、樹液に触れた。
それは偶然だった。
森には風が吹き、葉が揺れ、まだ人類の知らない太陽が、地上を照らしていた。
虫は未来を知らなかった。
自分の小さな身体が、途方もない歳月を越えて、誰かの掌に載ることなど。
生きているものは、いつか死ぬ。
けれど、失われることと、消滅することは同じではない。
一瞬の出来事が、物質の中に痕跡を残す。
過ぎ去った時間は、完全には過ぎ去らない。
私たちの記憶もまた、透明な樹脂に似ている。
何気ない午後の匂い。
誰かが笑ったときの横顔。
もう戻れない場所に差していた光。
大切なものほど、記憶は不思議な形で保存する。
正確な言葉は忘れても、そのとき感じた温度だけが残っている。
琥珀を光にかざす。
小さな虫の翅が、黄金色に透けて見えた。
永遠とは、時間が止まることではないのかもしれない。
過ぎ去った一瞬が、遠い未来の誰かに、もう一度触れること。
掌の中で、太古の午後が静かに明るくなった。


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