雨には国籍がない。
北の海で生まれた雲が、いくつもの山を越え、知らない町の屋根に雨を降らせる。
その一滴が、国境を通過したことを知る者はいない。
パスポートも、滞在許可も、帰る場所を証明する書類も持たず、雨はただ重力に従って落ちてくる。
地上では、人々が線を引いている。
ここから先は私たちの土地。ここから向こうは別の国。言葉が変わり、通貨が変わり、ときには同じ空を見上げることさえ難しくなる。
けれど川は、そんな事情を知らない。
山肌を伝った水は、小さな流れになり、いくつもの支流と出会って海へ向かう。
途中で名前を変えることはあっても、水そのものが別人になるわけではない。
夕立が過ぎたあと、道路に小さな水たまりができていた。
そこには、逆さまの空が映っている。
雲はもう遠くへ行った。
明日には、この水も蒸発して、別の町に降るのだろう。
私たちが地図に引いた線を、何ひとつ覚えないまま。
そしていつか、遠い国の誰かが差し出した傘の上で、今日の雨がもう一度、小さな音を立てる。



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