桃太郎は荷馬車に揺られていた。
同じく荷馬車には猿と犬、そして空から雉が追いかけてきていた。
桃太郎はここ数日に起きた出来事を反芻していた。
ある朝目覚めると婆さんが襖の間に一人忽然と座っていた。
桃太郎「どうしたんだい、婆さん。具合でも悪いのかい」
婆「ついに時が来た、桃太郎よ、鬼ヶ島へ行け」
桃太郎「またその話かい、それなら僕はいかないよ。僕にとっては都会での生活、つまりそうだな、キャンパスライフってやつに憧れがあるのさ。だから、僕は行けない。」
桃太郎の意志は固かった。
婆「どうしても行かぬというのなら、この私の死屍を超えてもらうことになる。それでもいいのか」
桃太郎は婆の気迫に気怖されてたじろいだが、何も喋らず、両者の間にピンとした緊張が走った。
おもむろに石像のように黙っていた爺が朴訥と喋り始めた。
爺「ワシも鬼になりたかった。武の極みに到達せぬワシの唯一の願いじゃ、桃太郎よ、どうか鬼を、変幻燐一刀斎 赤鬼 あやつを倒してくれ 葬ってくれ」
桃太郎「じゃあ僕のキャンパスライフはどうなるんだい」
爺「桃太郎よ、よく聞け、お前のいきたい大学はどこだ」
桃太郎「明石中央自動車大学校です」
爺「よく聞け、桃太郎よ、鬼の持つ胆力は強力じゃ、やつが本当の力に目覚めし時、日本の半分くらいは簡単に消滅するじゃろう、いや世界だってわからん。すなわち、世界が存在するから日本が存在し、日本が存在するから大学が存在する、大学が存在するからキャンパスライフが存在するのじゃ、この意味がわかるか桃太郎」
桃太郎「な、なにを言ってるかわからないよ」
爺「遺言じゃよ」
爺「ワシもお婆ももう後先長くない、お前の面倒をいつまでも見てやることもできんじゃろう。老い先短い老人の戯言じゃ。しかし生活をともにしてきた仲間でもある。家族でもある。・・・・桃太郎、行ってくれるな」
桃太郎は俯いていた。
鬼の暴虐によりキャンパスライフが危機に晒されている。
それは耐え難かったし、許し得なかった。
桃太郎「爺さん、俺、行くよ」
その日は婆さんが作った赤飯を3人で黙々と静かに食べた。
爺さん達の家には秋風が吹きすさび、冬の訪れを予感させていた。