第五章 もしもう一度あの日の君に戻れたら


35年前ーーーー棋王島ーーーー

AKAONI「阿修羅 山武彦之命よ、もうやめぬか、こんなことは、一体誰が喜ぶというのか、木は枯れ、森は荒み、人々は祈りを求める、山武彦之命よ、諦めるのだ。お前ではワシには勝てん。勝負はついたのだ。」

長きにわたる死闘を繰り広げた阿修羅こと山武彦之命は鬼の前に息も絶え絶えに喘いでいた。

呼吸は荒く息を吸うたびに胸を締め付ける痛みがする。

喉が熱い。

AKAONI「お前はよくやった。人々を愛し、闇を恐れ、しかし屈せず、恐怖の中にも前進し死闘を繰り広げた。もう十分ではないか。誰がお前を嘲笑できよう。貴様のような勇敢さで私に立ち向かった者など誰一人としていなかったというのに」

赤鬼は山武彦之命(お爺)に笑いかけた。

不気味な笑いだった。

その時大地が裂け、山武彦之命は大きな風圧に吹き飛ばされた。

鬼のけたたましい笑い声があたり一面に響いた。

大きな地鳴りと爆発音が同時に起こる。

吹き飛ばされた刹那、瞑った眼を再び開いた時

彼の目には大きな眩いばかりの光の円柱が見えた。

業火は縦に縦に空を突き伸ばすように燃え盛っていた。

それを炎だと認識できたのは数秒してからのことだった。

町が死んだ。

村の人々も。

なにもかも。

なにもできなかった。

山武彦之命はその炎をただ見つめていることしかできなかった。

お爺は思った。

だがワシは生きていると。


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