第十一章 嵐のあとの虹


赤鬼は夢をみた

ほんの束の間、桃太郎の拳が自分のはらわたを貫く瞬間、貫いた瞬間

自分の愛した女が自分を愛するという夢

それはありえなかったありえたかもしれない世界

赤鬼のほんのわずかに残されていた理知的な願望。

「ぐ、ぐおうう」

赤鬼は生まれてから最も情けない声を出して倒れ込み絶命した。

こんな声が自分にも出せるのだと思いながら。

あたりには空っ風が吹きすさび、寂れた景色が広がった。

桃太郎達に勝利の高揚感はなかった。

ただあるのは寂寞とした不安だけだった。

世界が重い。疲労が鉛のようだった。

「あ、雪」 猿が声をあげた

鈍色の空から雪片がぽつりぽつりと桃太郎達の頭上におちてきた。

鈍色の空から降る真っ白な雪片は赤鬼が決して流すことができなかった赤鬼の涙のように思えた。

その雪が桃太郎達の鬱屈とした気持ちに微かなあかりを灯した。

さあ、家へ帰ろう

温かい晩ごはんが待ってる

これでやっと僕も大学生になれるよ

ー完ー


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